2020.09.25

【インバウンド成功事例に学ぶ】外国人患者を呼び込む、本質の伴った医療とは

【インバウンド成功事例に学ぶ】外国人患者を呼び込む、本質の伴った医療とは

2020年には市場規模が5500億にも達すると言われていた医療インバウンド業界。新型コロナウイルスの影響によって大きな打撃を受けたものの、外国人患者たちは日本で医療を受けることをあきらめてはいないという。
どういうクリニックがインバウンドで成功するのか、このコロナ禍でクリニックにできることは何があるのか。多くのインバウンド患者が来院するというモッズクリニックの長野寛史先生と、インバウンド事業を行う桜ジャパン株式会社の西村芯芯代表取締役にお話を伺った。

日本の医療を目指す中国人

——なぜ昨今、中国の方は日本で美容医療を受けようとしているのでしょうか?
西村氏)  今までは、中国人が海外で美容医療を受けようとすると、韓国が第一選択肢に上がっていました。その背景には、韓国美容医療の価格の安さや技術力、症例数の多さなどがあり、中国国内で美容医療を受けるよりも安価に高い技術の治療を受けられる点が支持されていたのです。
しかし近年、それが一転し、日本で美容医療を受けようとする中国人が急増しています。そこには、確かな技術力や医療に対する安心感、日本特有の“おもてなし文化”などが関係しており、今や日本国内でもインバウンド専門のクリニックができるほど、一大ビジネスに成長しています。

「安心を買う」という想いで業者と提携

——そんな中、長野先生がインバウンドを始められたきっかけは何だったのでしょうか?
長野先生)  正直に言うと、初めのうちはインバウンド患者様をターゲットにしようと考えていたわけではありませんでした。中国人患者様がぽつぽつと来院してくださるな、と思っていたら、特に宣伝もしていないのにだんだんと増えていって…。あとから聞いた話ですが、私のクリニックに来てくださった患者様が、中国の口コミサイトに感想を書き込んでくれていたようです。それを見た方が来てくれるようになり、徐々にインバウンド患者様が増えていったという経緯です。

——なるほど。しかし口コミだけで中国人患者様が来院してくださるなら、インバウンド業者を入れなくてもよさそうですが、あえて桜ジャパンと提携したのはなぜでしょうか。
長野先生)  確かに業者を入れなくても中国の方は来院してくださりますが、「安心感を買う」という意味でも信頼できる業者と組んだ方がよいでしょう。幸い、私のクリニックではトラブルが発生したことはありませんが、通訳の質の問題や文化の違いから、トラブルの種というのはどこにでも潜んでいます。
業者が間に入ることで、事前にトラブルの芽を摘み取ってくれるので、安心して患者様を受け入れることができています。

西村氏)  仲介業者としては、常にトラブルが起こらないように気を配っております。通訳一つ取っても、育成や教育に力を入れており、常に正確で中立な通訳をするように徹底しています。

長野先生)  インバウンドを行う上で、通訳の質は非常に大きなウェイトを占めます。桜ジャパンに仲介を依頼するまでは、インバウンド患者様を自分たちだけで対応しようと考えたこともありました。しかし、それでは「通訳が正しく伝えてくれているかがわからない」という問題があることに気づいたのです。私が「そんなに細くはなりませんよ」と言っているのに、患者様に治療を受けてほしいばっかりにきちんと訳さなかったり、クリニックにとって良いことばかりを伝えてしまったり…。通訳もクリニックのことを考えて行ってくれたことなのかもしれませんが、それでは後々トラブルになりかねません。その点、桜ジャパンの通訳には安心してお任せすることができています。

西村氏)  正確な通訳というのも一つの大きなポイントですが、クリニックで専属の通訳を雇ってしまうと、「ここは中国人向けのクリニックなんだ」という印象を与えてしまいます。中国人は、中国人が多く通っているクリニックを避けがちです。そういう意味でも、クリニックで通訳を雇うというのはあまりおすすめしていません。

——中国人患者が多いクリニックはあまり好まれないのですね。反対に、好まれるクリニックの特徴というのはありますか?
西村氏)  中国人が日本を選ぶ理由の一つに、“おもてなし文化”があります。日本特有の質の高いサービスは中国人にとても評判が良いのです。特にプライバシーが重視されていて特別感を演出してくれるようなクリニックは、リピーターが絶えません。
開放感があるクリニックも素敵ではありますが、中国人患者にはあまりプラスには働きません。先述の通り、中国人が多く通っているクリニックはあまり好まれませんので、待合室で隣に中国人の患者がいると、とても嫌がられてしまいます。

長野先生)  私のクリニックでは、待合室を設けていませんし、動線的に他の患者様と会うことはありません。そういう点もインバウンド患者様には合っていたのかもしれないです。

ポイントは「その道のスペシャリスト」  求められるのは総合医よりも専門医

——インバウンドで成功するのはどのようなクリニックなのでしょうか。
長野先生)  私の考えではありますが、「インバウンドで成功しよう!」と考えて、何か対策を打つ必要はないと思っています。もちろん先ほどのような「インバウンド患者様にウケるクリニックの設計」などはありますが、それよりもまずは、日本人向けに「本物の医療」を提供することを考えるべきでしょう。
中国の方の口コミ力は凄まじいので、日本で評判になればおのずとインバウンド患者様が増えます。まずは国内の患者様を大切にし、「本質」の伴った医療を提供する。そこで評価していただければ、海外からも患者様が来てくれますし、仲介業者も優先的に患者様を紹介してくれるようになるのではないでしょうか。

西村氏)  先生のおっしゃるように、まずは日本でしっかりと実績を作ることが大切です。中国人は日本の口コミサイトの情報を見ていることもありますから、日本で評判が悪いクリニックには行きたがりません。
また、「その道のスペシャリストかどうか」も非常に重要なポイントです。最近、「目周り、鼻、脂肪吸引、豊胸、何でもやります!」というクリニックが多いです。しかしそういうクリニックよりも、モッズクリニックのように「脂肪吸引専門」という方が、中国人は行きたがります。というのも、中国・韓国は総合的に何でも診るクリニックが多いため、日本には専門的なクリニックを求めるのです。
インバウンドで成功しようと思ったら、何かの治療を極めて、「売り」を作ることをおすすめしています。

長野先生)  シビアな話をすると、クリニックは仲介業者に選んでもらう立場です。「あそこなら安心して紹介できる」と思ってもらわなければいけません。例えば、私のクリニックよりも脂肪吸引がうまくて顧客満足度の高いクリニックがあれば、業者はそちらを紹介するでしょう。それは仕方のないことです。ですから、クリニックは常に質の高い医療を提供して、サービス面で手を抜いてはいけません。当たり前のことですが、本質の伴った医療の提供を徹底すれば、国内外を問わず患者様は来てくれると思っています。

アプリのLive配信で知名度アップを

——インバウンド集患はどのように行っているのでしょうか。
長野先生)  日本の医師が中国国内に情報を発信したいと思っても、使っているSNSやアプリが異なるため、なかなかできるものではありません。
桜ジャパンでは、クリニックの代わりにアプリを使った情報発信を行ってくださいます。医師や治療の情報だけでなく、Live配信もしてくれます。企画を立てる段階から請け負ってくださるので、とても助かっています。

西村氏)  弊社では『Soyoung』というアプリを使用しています。Soyongは中国国内で最大の美容整形アプリで、2019年から日本のクリニック情報を発信しています。弊社は、Soyong日本総代理店として、数多くのクリニックを紹介してきました。
また、中国にはSoyongとは別で『美団(大衆点評)』という生活情報アプリもあります。こちらはユーザー数が4.5億人と非常に多く、現在海外(特に日本)の美容整形情報の発信に力を入れています。これらのアプリを駆使して、クリニックの情報を中国国内へ発信するお手伝いをしております。
このコロナ禍で、インバウンド患者様は激減してしまいました。しかし、できることはゼロではありませんので、中国への情報発信を続けて、集患対策を行っていきたいと思っています。

長野先生)  アプリでインタビューを掲載してくれたり、Live配信を行ったりすると、一気にクリニックの認知度が上がります。そのためにも、西村代表から夜中にLive配信の撮影をしようと言われてもお断りしないようにしています(笑)。

「早く日本で治療を受けたい」

——今回のコロナ禍で、インバウンド業界は大きな打撃を受けていますが、今後インバウンドはどうなっていくと思いますか。
西村氏)  世界的にコロナが流行する前までは、これからどんどんインバウンド需要が伸びるだろうと予想されていました。今年はオリンピックも予定されていましたし、2020年はまさにインバウンドの年であると誰もが期待していたものです。
しかしご存知の通り、コロナ禍で渡航制限もかかってしまい、インバウンド業界は壊滅的な打撃を受けています。正直なところ、先の見えない状況ではありますが、今は種を仕込む時期だと思って、各社とも日本の医療情報の発信に注力しています。
とはいえ、「早く日本で治療を受けたい」という中国人の声は絶えません。コロナ禍が落ち着き、渡航制限が解除された際には、多くの患者が来日することが予想されています。
今クリニックにできることは、長野先生のおっしゃるように日本で質の高い医療を提供し続け、いざとなったときに中国人を受け入れられるような感染対策をしっかりと行っておくことなのではないでしょうか。

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